篁阿論的鍵盤談義

101 key はオトコのロマン


 ここは、いったいなに? と言う方のために (って殆どそう思う筈) 、わたしのキーボードに関する考え方なんぞを書いてみましょう。

 わたしがキーボードに拘る様になったのは、いつの頃か… たぶん2年ぐらいむかしのことだと思う。そのころわたしはまぐれで学校を卒業して、奇跡的に社会人となっていた。(本当は教師の恩情だ、って説もある)

 学校には何を血迷ったか NeXT Station Turbo Color なんてモノが置いてあり、われわれはそこで C の実習やら NET のブラウズやら、あと課題のウェブページ作成なんかをやっていた。今から考えると贅沢、と言うより金を使いすぎた設備だったように思う。(なんせ、当時 NET に専用線で接続している専門学校は日本にたったの2校しかなかった)

 NeXT というワークステーションはとってもよく出来た、手の込んだマシンで、当然の様に目の玉が飛び出るような値段がする。しかしその値段にもちゃんと根拠が有るわけで (註1) 、マシンの色艶から始まり、デザイン、手触り、マウスの転がり、キーの叩き具合は一級品。OS は使いやすく、開発はとてもラクチンと言う夢の様なマシンである。値段以外は。

 世界で最初のブラウザもこの NeXT 上で動いた。Tim Berners-Lee が当時 CERN で働いていたときに、文書の共有を目的に作ったのが HTML で、それを見るために彼はブラウザを発明した。当時の CERN では非常に多くの種類のマシンが稼動していたらしい。

 話が逸れてしまった。本題はキーボードである。

 この NeXT のキーボードと言うのが優れもので、叩き具合もさる事ながら、随所に細かい工夫を凝らした設計になっている。そのうちでも特筆すべきは漢字入力時のキーアサインで、これが NeXT キーボードの特徴であるスペースバー手前に置かれた Command キーの最も効果的かつ洗練された使い方である。

 漢字入力には DOS 系や Windows では Alt + ~ (または Alt + 漢字) 、Be だと Alt + SPACE になっているが、NeXT の場合にはこれが Command + SPACE になる。つまり、親指で Command キーを押しつつ人差し指で SPACE を叩く。あるいは、左右の親指のみを使ってのキー入力も可能だ。

 この素晴らしさは筆舌に尽くし難いものがある。とにかく、これで慣れるとほかのキーボードはどうしようもない。ある意味このキーボードに触れてしまったことは不幸だったかもしれない。それ以降、満足のいくキーボードが無かったからだ。そしてそれが、わたしがキーボードに拘っている原因でもある。


 そもそもキーボードとマウスは人からの入力デバイスとして最も一般的で、歴史も長い。出力デバイスとしての CRT や液晶なんかは比べ物にならない。キー配列なんかタイプライター以来殆ど変っていない。

 それなのに最近はコストの削減だかなんだか知らないが、感触の悪い、それに脆い、つまり早い話が粗悪品のキーボードがまかり通っている。これはとんでもないことだ。

 出力装置としての CRT や液晶の画面は、目に悪いから長時間凝視することは良くないと言われ、メーカーは発色やちらつきに気を配る。ドライアイと言われる新種 (?) の目の病気もある。メーカーは「目に負担をかけない」出力デバイスの開発に力を入れている。コンピュータ作業は兎角人間に負担を強いるものなのだ。

 しかしキーボードの方はというとさにあらず。キー入力作業を行うキーパンチャと呼ばれる職種の人には腱鞘炎というとんでもない病気があるにも関らず、どのメーカーも「手首に優しい」とか「疲れを軽減する」とかいった製品を出してはいない。

 だからこそわたしは、キーボードに拘ってみたい。叩き心地のいいキーボードを使いたい。そして真夜中にチャットをしているとき、キーの感触を楽しみながら一人で悦に入りたいのだ。


 では、わたしの拘っているキーボードに附いて、いくつかの条件があるのでこれを書いてみたい。

 一番重要なのは勿論キーの叩き具合だ。これはどうしてもゆずれない。

 メカニカルのものは勿論良いが、最近そういうものは極端に少ない。ゴムはちょっと勘弁だが、それでも感触の良いものが偶にあるのでやはり実際に叩いてみないと解らない。

 これは余談だが、PC のショップなんかのキーボードを売っている店で、たまに全体をビニールで包んでいるところがある。こんな事をされたらキーの感触が掴めないのでとても困る。キーボードにとって叩き心地というのは (たとえそれが第一義でなくても) とても重要な部分であって、それが解らなければつまりこれは購入するのにリスクが伴うと言うことだ。あれだけ丁寧に包んでいるということはきれいなままにしておいていずれ売るからなんだろうが、恐らく「感触を確かめるために一度触りたい」と言っても拒否されるか、良くても嫌な顔して箱ごと差し出すといったところが関の山だ。こういうところは他の事でも対応が悪いのでどうせいずれは潰れるが、それでも腹が立つ。カウンタのガラスケースに入れたままなんて、こっちとしてはキーボードが可哀相で仕方が無いのだが、まあそういうところはだいたいが大したキーボードは置いていない。

 話を戻して叩き具合だが、わたしは「かちゃ」と音のするのが良い。そしてキーはちょっと強めに押し込むもので、ストロークは少し深めが好きだ。実際の反応 (画面に文字が現れるタイミング) があってから更に沈み込むのは好きじゃない。

 いまのところ感触的に一番良いと思っているのは、初期の PC-98 付属のものだ。うちには PC-9801 RA21 という古いマシンがあるが、このマシン環境の中でキーボードだけは今でもわたしの所有するキーボードの中で一番品質が高い。因みにこの RA21 には FreeBSD(98) が入っていて今でも現役である。

 次に重要なのはキー配列。これは個人的な趣味で、US 配列でないとどうもしっくりこない。必然的に持っているキーボードは 101 キーが殆どを占めている。

 当然ながら 104 とか 112 などというふざけたキーボードは嫌いだ。

 Windows キーなんてものは有ってもなんの意味も無い。スタートメニューは Ctrl + ESC で開くし、ポップアップメニューは Shift + F10 で出てくれる (IME が動いているとそうもいかないが) 。そんなキーを附けなければ操作性が改善されない OS というのがまだまだ未成熟なのだ。そもそも Windows を入れないときはこのキーはなんの役に立つわけでもない、ただ邪魔なだけの存在でしかない。

 こういう無駄なキーがのさばってしまっているせいで、スペースバーが狭くなる。これは OADG 準拠の 106 キーボードでも言えるが、まったく使わないキーのために重要なキーが押しやられるというのは本末転倒といえる。わたしやその周りに、「無変換」や「前候補」を意図的に叩いた (使った) ことのある人間はいない。わたしが US 配列に拘っているのも一つはスペースバーの長さのためだということがある。(ホントは他にももうちょっと理由があるけど、これに比べたら些細なことだ)

 だいたいこの条件を満たしていれば、その場で即購入してお試しとなる。


 ここではこれから、こういう衝動買いしたキーボードをわたしの独断と偏見で紹介していこうと思う。

 わたしの最終目的地は、いまのところ Kinesis ERGONOMIC KEYBOARD だが、そこへ辿り着くまでには、まだまだ通らなければならない関門がある。PFU の Happy Hacking Keyboard も持っていない。IBM の Enhanced Keyboard も持っていない。Track Point 附きの Enhanced も当然まだ持っていない。DATALUX の Space-Saver Keyboard に至ってはまだ見たことが無い。

 最近、波多利朗氏の記事で Datahand Keyboard なるものも見た。

 なかなか予算が捻出できないのが悲しい。

 わたしの前途は多難である。


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 NeXT 社はスティーブ・ジョブズが Apple を追われて作った会社である。ちょっと値段は高かったかもしれない。(今の iMac みたいに)


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